2014年9月26日

精神分析トゥィーティング・セミナー:フロイト・ハイデガー・ラカン,24 September 2014



24 September 2014 : Freud による無意識の発見の本質は去勢複合の発見に存する; Φ ( − φ ) φ.

Freud は無意識を発見した,と言われます.

『無意識の発見』という本があります.著者は Henri Frédéric Ellenberger. カナダ人ですが,名前を見ればわかるように,フランス語圏の人です.ですからカタカナ表記は「エレンベルガー」ではなく「エランベルジェ」とすべきです.『無意識の発見』は1970年に出た本ですが,邦訳はまだ絶版にはなっていないようです.いわゆる力動的精神病理学と精神分析の歴史に興味があれば,一読してもよい本です.必読ではありません.

Freud は無意識を発見したと言われますが,その発見の本質は何か?それは,去勢複合です.去勢の名のもとに,Freud は,存在欠如,すなわち,存在論的穴を発見しました.勿論,彼は,その発見をそのような存在論的用語では記述しませんでしたが.

去勢の本質を形式化する学素は,抹消された徴示素ファロス φ です.

徴示素の宝庫である他 A の場処には,性関係を実現するかもしれない徴示素ファロス φ が欠けている.より正確に言えば,徴示素ファロス φ は「書かれぬことをやめぬ」不可能な徴示素である.

徴示素ファロスが書かれぬことをやめないことによって,他 A の場処には穴がうがたれます.そして,Heidegger-Lacan 定理により,φ 存在とは等価であるので,去勢とは存在論的欠如である,と言うことができます.

このような去勢のトポロジーを Freud は影象的に捉えました:去勢とは,母親ないし女におけるペニスの欠如である.

Lacan が他 Autre と呼ぶもの,徴示素の宝庫としての他 A は,精神分析における母親の機能の形式化です.

fonction imaginaire de la castration [去勢の影象的関数(相関事象)]を Lacan ( − φ ) の学素で形式化します.それは,「母親ないし女における欠如せるファロス」と Freud が影象的に呼ぶものです.

たとえば Hans 少年の例を見ればわかるように,去勢複合は,この phallus imaginaire 「影象的ファロス」 ( − φ ) という対象をめぐって形成され,展開されます.馬車が交通と運搬の主要手段であった時代の Wien に暮らしていた Hans 少年の場合,それは,極めてみぢかな動物の一種であった馬に指をかまれるのではないかとひどくこわがる恐怖症症状の形成に至ります.

その不安は,本質的には,去勢の影象的相関事象としての ( − φ ) ではなく,ex-sistence としての φ の深淵が他 A の場処にうがつ穴 S(Ⱥ) を前にしての不安です.

この存在論的穴は,男の場合,通常は,phallus symbolique Φ により塞がれます.

話を整理すると,ひとくちに phallus と言っても,三つの学素があります: Φ ( − φ ) φ. それら三者は,symbolique 「徴象」,imaginaire 「影象」,réel 「実在」の三つの位にそれぞれ属しています.

抹消された徴示素ファロス φ は,書かれぬことをやめない不可能な徴示素として,実在的なファロスと呼ばれてよいでしょう.それは,「性関係は無い」を形式化する学素です.

( − φ ) は,実在的なファロスの影象的な相関事象,影象的ファロスです.それは,母親のファロス,女には欠けているファロスの image として, 負(マイナス)の記号を付されています.

ギリシャ大文字 Φ で形式化される phallus を,Lacan signifiant de la jouissance 「悦の徴示素」(Ecrits, p.823) と呼んでいます.つまり,Φ は徴象的ファロスです.

Φは,φ の深淵:「性関係は無い」の穴を塞ぐ代補です.それは,男の性別を規定する徴示素ファロスです.

Hans 少年においては,Φ がしかるべく形成されず,φ の深淵が多かれ少なかれ口を開いたままとなっています.その開口をまがりなりにも塞ぐために動員されたのが,恐怖症の対象としての仮象的客体 a, Hans 少年の場合,馬です.

Hans 少年の父親の観察によれば,時間の経過につれて,客体 a の座には,恐怖症の対象としての馬に代わって,Hans 少年が空想において母親的に世話する子供たちが登場してきます.ですから Lacan は,Hans 少年は後年,同性愛者になる可能性がある,と指摘しています.実際そうなったかどうかは確認できませんが,Hans 少年は成長して,オペラの演出家になりました.彼が空想のなかで遊んでいた子供たちは,舞台の上で動き回る歌手となったわけです.彼は,選ぶべき仕事を選んだと言えるでしょう.

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